CAR DESIGN

2017.4.14

「それは本当に自分のアイディアか?」 HALで学んだ「こだわり」の哲学

  • 下横 洋之

    カーデザイン学科/2014年卒業

体験授業で触れた先生の熱意がHALへの入学の決め手に

車が好きで自動車業界に就職したいという人は多いが、カーデザイナーという職種を選ぶ人はあまり多くない。仕事として魅力がないわけではなく、そもそもカーデザインという仕事があまり知られていないからだ。 HALのカーデザイン学科を卒業し、日産自動車のカーデザイナーとして活躍する下横洋之さんも、高校生まではカスタムパーツやカスタムペイントに興味を持つごく普通の車好きだった。 カーデザインを知ったきっかけも自動車のカスタムイベント。自動車メーカーの展示ブースに貼られていたスケッチを見て、初めて「車のデザインは絵から描いている」ことを知ったのだという。 「それまでは車のカスタムの職人になりたかったけれど、もっと根本の“姿”の部分をつくるカーデザインの道も楽しそうかなって思ったんです」。 本格的にカーデザインを学ぶため、高校卒業前に学校探しを開始。HALと他校とで迷った結果、HALを選んだのは立地の良さもさることながら「体験入学で感じた先生の熱意」が決め手だった。 カーデザイン学科の同期は少人数ながら、カーデザイナーを目指してやる気に燃えるメンバーが集まった。

就職活動において重視したのはデザイン力を高めてくれる最高の環境

入学後に下横さんを悩ませたのは、デッサンをはじめとするイラスト技術の勉強だった。それまで絵を描く経験がほとんどなかったため、同期の友人と一緒に校舎の閉館時間まで何十枚もスケッチを描き続けたという。 「とにかく数を描いてなんとかしようと。1日でボールペン1本を使い切る勢いでデザインを描いて、先生に見せてはアドバイスをもらう日々でした」。 必死に特訓した甲斐もあり、学内外のコンテストで入賞するまでに上達した下横さんは、その後、インターンシップや自動車メーカーのワークショップなどの経験を経て、日産自動車に入社することになる。友人たちもそれぞれ自動車関係の会社に就職を決めた。 数ある自動車メーカーから日産自動車を選んだ理由を下横さんは「デザイナーにとって申し分のない環境が用意されていたから」と語る。

勤務地である厚木市の日産テクニカルセンターは、広大な敷地に巨大な研究施設が建ち並び、コンビニやコーヒーショップなども充実している。建物内は天井が高く、内装もスタイリッシュで、研究開発の事業所とは思えないほどの開放感。静かで緑が豊かな町にありながら、新宿まですぐに出られるアクセスのよさも魅力だった。 クリエイティブな仕事をする上で、日産の研究所は「のびのび快適に働けて発想力を高めてくれる最高の環境」なのだという。 日産自動車に惹かれたもう1つの理由は、同社に外国籍の従業員が多いこと。また、新人であっても海外出張や研修の機会が与えられることだ。 「グローバルな環境に身をおいて興味の場を広げたかったんです」という下横さんの希望通り、入社後ほどなくしてイタリアへ短期留学の機会が与えられた。 約1ヵ月間の滞在で、日本と海外のカーデザインの考え方の違いをはじめ、様々なことを学んだ。知っていても、実際に経験しなければわかったとはいえない。日照時間の差による生活の違い、道幅がデザインに及ぼす影響……それらをスポンジのように吸収しながらデザイン力は磨かれた。

  • HAL在学中の作品。日本カーモデラ―協会主催のイベント「クレイモデルエキシビジョン 2012」の「学生デザインチャレンジ」で、下横さんの作品が選ばれた。

  • HAL在学中の作品。日本カーモデラ―協会主催のイベント「クレイモデルエキシビジョン 2012」の「学生デザインチャレンジ」で、下横さんの作品が選ばれた。

自分のこだわりは譲らずそれ以外は柔軟に吸収

入社して最初に配属されたのは海外で展開する「インフィニティ」ブランド。将来の「インフィニティ」の外装デザインを考える先行開発を担当した。仕事においてはHALで学んだ技術が大いに生きた。デザインをイラストに起こし、コンセプトをプレゼンテーションする。上司や部署メンバーに認められれば、そこから実際の自動車をつくるべく、プロジェクトが動き出す。 「自分の考えたデザインが形になるのはもちろん最高に嬉しいですが、周りに認めてもらえた、選んでもらえたということ自体がすごく嬉しいしモチベーションにつながるんです」と下横さんは声を弾ませる。 1人だけでは決して完成させることのできない自動車というプロダクトだが、かといって「周りの意見だけでつくったデザインは破綻する」とも言う。 「要素が100あるとしたら、そこに1でも2でもいいから自分の譲れないこだわりを入れて、それを真ん中に置いておくんです。それ以外の部分は人の意見を柔軟に反映させていきますが、真ん中のこだわりだけは変えてはいけないと思っています」。 そんな考え方を学んだのはHAL在学中のこと。スケッチを見せに行ったときに先生が言った、「俺は言いたいことを全部言うが、それをすべて聞いてもデザインは良くはならない。自分で良いと思ったことだけを拾え」という言葉がきっかけだ。それ以来、下横さんはつねに「このデザインは本当に自分が好きで考えたものなのか?」「先生(上司)の考えたデザインを絵にしただけじゃないのか?」と自問している。 最後にカーデザインの魅力を尋ねると、「感覚に訴えてくる造形美を追求できるところ」だという。使いやすさのためだけのデザインではなく、純粋に「かっこいい」と思わせるデザイン。下横さんが良いとこだわる車が、今後、ますます街をかっこよく彩っていくだろう。 ※卒業生会報誌「HALLO」70号(2016年11月発刊)掲載記事

下横 洋之

カーデザイン学科/2014年卒業

自動車イベントをきっかけにカーデザインに興味を持ち、HAL大阪カーデザイン学科に入学。学内外のコンテストなどで優秀な成績を収め、インターンシップやワークショップを経て日産自動車株式会社にカーデザイナーとして入社。「インフィニティ」ブランドの外装デザインを担当した後、現在はニッサンブランドで活躍。

日産自動車株式会社

1933年設立の自動車メーカー。日本を含む世界20カ国や地域に生産拠点を持ち、160以上の地域で商品・サービスを提供。従業員は連結ベースで15万人以上、年間売上高は12兆円以上に上る。