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HALで知ったチーム制作の面白さ。それがディレクターとしての基礎になった

GAME
永井 裕也
株式会社スクウェア・エニックス 第8ビジネス・ディビジョン ディレクター/リードプログラマー
ゲーム制作学科/2011年卒業

HALで気づかされたチーム制作の醍醐味

2017年7月、長崎県にあるハウステンボスに出現したアトラクションが大きな話題を呼んだ。前後左右360度に下面90度を加えた5面450度の映像空間の中で、光と音に合わせてビートを刻む世界初のVRアトラクション『バハムートディスコ』だ。開発を手がけたのはゲーム会社のスクウェア・エニックス。『ドラゴンクエスト』シリーズや『ファイナルファンタジー』シリーズで知られる大手ゲーム会社である。

そんなスクウェア・エニックスに所属し、『バハムートディスコ』のディレクションを担当したのが、リードプログラマーの永井裕也さんだ。2011年にHALゲーム制作学科を卒業し、株式会社イニスを経て2017年2月から現職となった。

代々続く寿司屋の家庭に生まれた永井さんは、ゲームセンターで『ビートマニア』に夢中になったことがきっかけでゲームクリエイターの道を志した。もっとも、HALに入学するまではゲーム制作の知識は皆無だったという。「学校を色々と調べたり、体験入学に参加したりしてHALを選びました。決め手は4年制でしっかり学べると思ったこと。実際、プログラム以外の分野についても教えてもらえたことが今に活きています。ゲームはチーム制作ですからね」。

学校で教わったのはチームでものづくりをすることの面白さ。自分では絶対に出てこないアイディアにも出合えるところが最大の魅力だ。そして、それと同時にプログラムという仕事の楽しさにも気がついた。
「企画、サウンド、グラフィックなど、様々な要素を最終的にまとめ上げてかたちにするのはプログラマー。音楽でいうと指揮者みたいな仕事なんです」。

プログラマーからディレクターへサポーターとしての役割

HALでのチーム制作の経験は、その後のプログラマーとしての人生にも大きな影響を与えた。卒業後、永井さんはゲーム制作会社である株式会社イニスにプログラマーとして就職するが、すぐにリードプログラマーとしてプロジェクト全体を統括するようになる。
「プログラマーは基本的に自分の範囲の仕事に集中しますが、リードプログラマーは人員配置やスケジュール管理などプロジェクト全体のマネジメントも担わなくてはなりません。はじめはどうすればいいのか戸惑いましたね」。

そこで永井さんは、プロジェクトマネジメントについて勉強を始めた。リーダーとしてプロジェクトを管理するためにチームをどうまとめていけばいいのか——経験と学習を経て、自分なりの方法論を確立することができたという。「それで気づいたのは、自分にはサポーターの仕事が向いているということです。ゲーム業界には、カリスマ性があって、斬新なアイディアが次々に生み出せる“天才クリエイター”と評される人もいます。しかし、私はそういうタイプではありません。その代わり、そうしたクリエイターやチームが最大限のパフォーマンスを発揮できるようサポートする仕事が向いていたんです」。

2017年の2月に縁あってスクウェア・エニックスに転職した永井さんは、最初の仕事として『バハムートディスコ』のディレクションを任された。同社としても初の挑戦となるVRアトラクション。プロジェクトを円滑に進行するため、リードプログラマー兼ディレクターとしてチームを指揮した。
「テクニカルな部分、それこそプロジェクタの選定から配線をどうするかといったハードウェアに至るまで技術周りを担当しました。それだけでなく、『バハムートディスコ』という作品の面白さはどこにあるのか、どうあるべきなのか。そういったことを筋道を立てて考えるディレクターとしての役割も経験することができたのです」。

既存の技術も組み合せによって今までにない新感覚を生み出せる

大成功を収めた『バハムートディスコ』は、まさに斬新と呼ぶにふさわしい作品だった。ゲームクリエイターとして“斬新であること”はつねに意識すべき重要な要素にも思えるが、永井さん自身は斬新という言葉を冷静に俯瞰で捉えている。
「斬新は奇抜にもなりうるし、その逆もあります。斬新な技術であっても、出す時代が早すぎたために奇抜と呼ばれてしまうことも多いのです。その中で斬新と奇抜をわけるとすれば、それはお客様から求められているかどうか、ということに尽きるでしょう」。

また、“斬新”とは必ずしも新しい技術を意味するわけではないとも語る。たとえば『バハムートディスコ』は斬新なコンテンツだが、使われている技術はどれも既存のものばかりだ。「VR、プロジェクションマッピング、そして没入感。既存の技術であっても、組み合せることで斬新さを生み出せるのです。もちろん、組み合せるといってもそこには様々な課題が生じます。たとえば『バハムートディスコ』ではヘッドマウントディスプレイを使わなかったので、どういう方法でお客様を楽しませればいいのか、最初は誰もわかりませんでした」。
技術自体は既存のものであっても、組み合せ方次第で新しいコンテンツとなる。その過程で生じた課題をクリアしたとき、そこに斬新さが生まれるのだ。

永井さんは学生時代を振り返り、「道は確かに今に続いていた」と語る。「ゲーム業界を目指す仲間と、4年間切磋琢磨できる。そういう時間は人生においてとても貴重でしたね。今、HALで学んでいる人には、そんな仲間たちとの時間を大切に過ごしてほしいです。そして、いずれはプロの現場で僕らと一緒にゲームづくりに参加してくれるのを楽しみにしています」。
HALで夢をかなえた永井さんの言葉は力強かった。

永井 裕也
ゲーム制作学科/2011年卒業
2011年にHALを卒業。ゲーム制作会社・株式会社イニスを経て、2017年2月に株式会社スクウェア・エニックスに転職。入社後最初の仕事として、世界初の450度VR・体感型音楽アトラクションとして話題を集めたハウステンボスの『バハムートディスコ』を担当した。
株式会社スクウェア・エニックス
『ドラゴンクエスト』シリーズや『ファイナルファンタジー』シリーズなどで知られる日本屈指のゲームメーカー。2003年にエニックスとスクウェアの合併により誕生した。数多くのスタークリエイターを輩出し、現在もプラットフォームを問わず多数のヒットタイトルを生み出し続けている。

※卒業生会報誌「HALLO」71号(2017年11月発刊)掲載記事