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知識・技術を共有し合える仲間とのチームワーク。独自の工夫、密な連携で、楽しみながら苦境をクリア。

CG/ANIMATION

株式会社デジタル・フロンティア
田淵玲児(CG制作部 チーフデザイナー)
石田利生(CG制作部 アシスタントテクニカル・ディレクター)
正木俊彦(CG制作部 デザイナー)

2008年に公開された、フルCG長編映画『biohazard DEGENERATION』。この作品に参加した、石田利生さん(写真中)、田淵玲児さん(写真左)、正木俊彦さん(写真右)のHAL同級生3名の前には、短期間での膨大なカット制作という難関が待っていた。スピード、クオリティに一切の妥協も許されない厳しい現場で彼らを救ったもの。それは、同じ知識や技術を共有し合える仲間とのチームワークだった。

2~3カ月の短期間に、 1人100カット制作の難題

2007年にHALを卒業し、同年、揃ってデジタル・フロンティアに入社した石田さん、田淵さん、正木さん。同級生の3人がチームとして手がけた作品は、2008年公開の映画『biohazard DEGENERATION』( 以下『bh』)。言わずと知れた大ヒットゲーム『BIOHAZARD』が原案のフルCG長編映画である。3人はこの作品で、CG制作の中でもキャラクターの基本的な動きを設定をする「リギング」と、衣服、髪の毛などの動きにリアリティを出す「クロスシミュレーション」を担当した。

「いわゆるセットアップという工程です。合計10人のセットアップチームのメンバーと分担しながら作業しました」(石田さん)。

「セットアップしてキャラクターの動きにリアリティを出し、アニメーション担当に渡します。この段階で動きに違和感があると、アニメーション担当から戻されてしまいます。制作する中で、シルエットや腕の曲がり方、肌や筋肉の表情には特にこだわりました」(正木さん)。

映像表現上のスタート地点となるのがセットアップという作業。仕上がった映像は、思わず実写と見まちがうほどだが、制作時は「2~3カ月で1人約100カット制作は必須。正直、人手が十分だったわけではありませんでした」(石田さん)。

そんな状況下の彼らを救ったものこそが、チームワークだったという。

新たな環境のもとで生まれた、 技術の共有と円滑なコミュニケーション

3人が所属したセットアップチーム、実は『bh』を制作するにあたって初めて社内に誕生した組織である。

「『bh』以前、セットアップの作業はCG担当の中で、“できる人がやる”という状態でした。でも、それでは情報や技術が共有できない。カット数の多い『bh』は、作業的に大変なこともあり、セットアップチームがつくられました」(田淵さん)。

よりよい環境を整えるため、臨機応変に社内体制を見直すところなど、さすがはデジタル・フロンティアという逸話だが、すかさず結果を出す彼らも彼らだろう。すぐに独自のチームワークを発揮しはじめる。週に一度のミーティングで状況を確認し合うのはもちろん、メールや社内WEB、さらにセットアップチームで立ち上げた“ セットアップブログ”でも、専門的な技能を紹介し合い、情報を共有するように工夫した。

「チームの10人それぞれが、別々のキャラクターをセットアップする僕らの作業では、仕上がりに統一感を出すことが大事。バラつきがあると後の工程でアニメーションがつけにくいので」(田淵さん)。

また、髪をかき上げるなど難易度の高いカットでは、クロスシミュレーションの最適な設定数値を共有することで、クオリティと効率を両立させた。

「ある数値を設定してスムーズな動きが表現できたら、似た動きの別カットにも応用しました。また、プログラムを自分たちで書いて動きがつけられるツールをつくり、みんなで共有しながらクオリティの均一化にも努めました。そういう連携はとても大切にしましたね」(石田さん)。

セットアップという技能を持つ者同士ならではの連携だ。他にもアドバイスし合ったり、制作過程を見せ合うなど、細やかで密なコミュニケーションが日常的に行われた。気づけば、過密スケジュールでの作業も、楽しい雰囲気に包まれていたという。この時に感じたチーム作業の醍醐味を、3人は次のように語ってくれた。

「同じ知識を共有できる人がすぐ隣にいるので、単純に楽しかったですね。専門的に深い部分まで技術をつぎ込めたのもよかった」(石田さん)。

「みんなで一丸になれたことですね。それとチームで取り組んだことで、個々の技術も格段に上がったと思います」(田淵さん)。

「チーム内で競い合えたことも技術の進歩につながりましたね。誰かが面白い技術を使っていたら、真似をするだけでなく、自分なりのアレンジも加えてフィードバックしました」(正木さん)。

新たな環境のもと、自然と生まれた一体感。それは、自分の仕事にこだわりを持つ者が集まったチームへ、確実にプラスアルファの効果を与えたようだ。

今でも大切にしている HALでの教えと3人の絆

石田さん、田淵さん、正木さんは、HAL時代からの同級生。在学中からチーム制作の経験を共有し、HAL-MODE FESTIVALでは大賞も受賞。当時から絶妙のチームワークを発揮していたことが窺える。そんな3人には、HALで学んだことで、今でも大切にしているものがあるという。

「たくさんの課題をこなす中で、自然とスケジュール感覚が身につきました。今、部下がたくさんいるので、自分はもちろん、彼らのスケジュールを管理する上でも役立っています」(田淵さん)。

「コンセプトの考え方ですね。表現方法は教えても、コンセプトについて教える学校は、少ないような気がします。コンセプトを考え、それに沿った表現をすることを学べたのが、とても良かったです」(石田さん)。

「受け身じゃなく、何事も楽しんでやること。それと、先生に言われた『見る人の心に残るものをつくれ』という言葉は、今でも自分の中に残っています」(正木さん)。

HAL時代からの絆を大切に、プロとして同じチームで大作のCG技術を支えた3人。彼らが発揮したチームワークは、今後もすばらしい作品につながっていくだろう。

株式会社デジタル・フロンティア

http://www.dfx.co.jp/
2000年5月に設立されたVFX・CG映像制作会社。一大ブームを巻き起こした映画『DEATH NOTE』シリーズをはじめ、『サマーウォーズ』『GANTZ』など、数々の話題作を世に放つ。その圧倒的なクオリティは常に高い評価を集め、業界トップクラスの地位を築いている。

※卒業生会報誌「HALLO」66号(2011年06月発行)掲載記事