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究極のエンタメを実現する
”酔わないVR”という革新

藤川 駿
株式会社UNIVRS
CIO
先端ロボット開発学科/2014年卒業

VRとの出会いが人生を変えた
新技術開発を目指しものづくりの道へ

それは単なる映像表現の革新ではなく、人生におけるあらゆる体験を根本的に変える未来のテクノロジーかもしれない。

バーチャルリアリティ──通称「VR」と呼ばれる技術がここ4、5年で急速に盛り上がりを見せている。日本語に訳すと「仮想現実」。その名の通り、コンピュータがつくり出した世界に飛び込んで現実とは違う体験が楽しめる技術である。

エンターテインメントのみならず、ビジネスや日常生活など様々な分野に大きな影響を与えると考えられているVRだが、一つだけボトルネックとなりうる課題が存在している。それが車酔いに似た「VR酔い」と呼ばれる現象。目で見ているVR世界の動きと、現実における体の動きの整合性がとれず、脳が混乱してしまうのが原因といわれる。

そんなVR酔いの改善に取り組み、特許も出願するなど着実な成果を上げているのが、 VRコンテンツの制作会社、株式会社UNIVRSのCIOを務める藤川駿さんだ。 1991年生まれの若きVRエンジニアであり、業界でも注目される存在である。

藤川さんは高校卒業後、HALに入学。先端ロボット開発学科でロボットの組込を学び、一旦は大手自動車メーカーである、富士重工業株式会社(現・株式会社SUBARU)に就職した。一方でものづくりへの情熱も膨らみ続けていた。「HALでの学生生活は刺激的でした。HEW(進級制作展)や卒業制作、さらに産学連携プロジェクトに参加し、自らものづくりのプロジェクトを動かす楽しさを知りました。その楽しさが忘れられず、ものづくりの道に進むことも考えていました」。

ちょうどそのタイミングで転機が訪れる。3歳上の実兄である啓吾さんが、VR機材を持って訪ねてきたのだ。言われるがままにヘッドマウントディスプレイを装着した藤川さん。そこには、これまで見たことのない世界が広がっていた。「衝撃を受けました。気づいたら数時間も夢中になって遊んでしまい、これはすごい技術だと興奮しました」。

VR酔いを防ぐ技術を開発
業界に嵐を巻き起こす“VR兄弟”

VRこそ自らの人生をかけるに値するテクノロジーだと確信した藤川さんは、兄・啓吾さんと共に株式会社UNIVRS(当初の社名はEXPVR)を創業する。

起業から半年間は受託仕事を主に手がけていた2人だが、「本当にやりたい仕事をしよう」との思いからXR(VR/AR/MR)領域のスタートアップを支援するTokyo XR Startupsに応募。ゲーム制作会社、株式会社gumiの代表である國光宏尚さんがメンターとなり、本格的にVR事業をスタートさせた。「國光さんからは、自分たちならではの強みを伸ばしていくようにアドバイスをいただきました。そこで、VRで不可欠な要素である“移動“、そして、その先にあるVR酔いという課題に取り組むことを決めました」。

酔いは体の動きと脳の認識のギャップから生まれる。体がほとんど動いていないのに、目で見える景色が大きく変わるから混乱するのだ。ならば、体の動きを大きくすることで脳の混乱を抑制できるのではと藤川さんは考えた。独自の研究の結果、導き出されたのは「手首を回す以上の動きがあれば酔いにくくなる」という結論。何度も知人を集めてプレイしてもらうなどさらなる検証を進め、自説への自信を深めていった。

この考え方から生まれたのが、アニメ『リトルウィッチアカデミア』のVRゲーム『リトルウィッチアカデミア-VRホウキレース-(仮)』である。7月に開発資金を募るクラウドファンディングを実施し、見事に目標金額を達成。ホウキで空を飛ぶ体験が楽しめる同作品は、“酔わないVR技術”があったからこそ生まれた革新的作品なのだ。

ワイヤレス&小型化するVR
5Gが普及の鍵を握る

藤川さんが新たに注目する技術が、まもなく本格的に運用が始まる5Gである。ワイヤレスで大容量・低遅延・高速通信を実現する5Gは、今後のVRにも大きな影響を与えると見られている。「5GでVRがワイヤレスになると、一般の方が楽しむためのハードルが一気に下がります。加えてデータの処理がPCやクラウドでできるようになれば、ヘッドマウントディスプレイはどんどん小型化できるでしょう。VRが一般に普及するカギを握るのが5Gなのです」。

藤川さんが思い描く夢は、子どもの頃から大好きだったゲームやアニメ、漫画の世界に飛び込むことができる究極のエンターテインメントだ。無線技術である5Gによって場所の制約から解き放たれたVRは、スマートフォンのようにいつでもどこでも持ち歩くのが当たり前の存在になっていく可能性を秘めている。 「部屋に帰ると、電気やPCをつけるのと同じような感覚でVRを起動する時代が来るでしょう。生活そのものがVRで大きく変わっていくのではないでしょうか」。

ソフトウェアだけでなくハードウェアに関する技術など幅広い知識が要求されるVRエンジニアだが、HALでプログラミング、そしてロボットの組込技術を学んだ藤川さんにはその両方が備わっている。「HALで学んだことはすべて今に活きています。技術だけでなく、チームをまとめたりメンバーのモチベーションを高めたりするマネジメント力は、起業した今とても役立っています」。

本当にやりたい仕事をするために起業という道を選択した藤川さんは、在校生に向けて「道は一つじゃない」というメッセージを送る。

「自分が本当にやりたいことを見つけて、それにチャレンジしてステップアップしてほしい。そのためには基礎が大切。その技術をHALで身につけてください」。

藤川 駿(ふじかわ しゅん)
先端ロボット開発学科/2014年卒業
株式会社 UNIVRS
CIO

2014年3月にHALを卒業後、富士重工業株式会社(現・株式会社SUBARU)でエンジンの量産化の検証・調整などに携わる。その後、兄・啓吾さんの誘いで、VRゲームの開発を行う株式会社EXPVR(現・株式会社UNIVRS)を共同創業。Tokyo XR Startupsを経て本格的なVR事業をスタートさせる。現在は“酔わないVR”に取り組んでおり、業界でもVR兄弟として注目を集めている。