News |

不得意だったチーム作業を克服できたのは
HALでのリーダー経験のおかげ。

CG/ANIMATION

株式会社 ポリフォニー・デジタル
甲斐智成(ランドスケープデザインチーム リーダー/デザイナー)

クリエイターとは、自分1人の殻に閉じこもってものをつくれば良い仕事ではない。
時には大勢の人や会社と連携し、ひとつのものをつくり上げていかなければならないのだ。
株式会社ポリフォニー・デジタルで働く甲斐智成さんは、そうしたチーム作業の円滑な進め方を、学生時代にリーダーとして経験したことから学び取った。実は自分の意思によるものではなかったというそのきっかけを伺った。

data

株式会社 ポリフォニー・デジタル

高校卒業後にHALを選んだのは
「一番学校っぽくなかった」から

時代の最先端を行く美麗なグラフィックと、高いゲーム性を併せ持ち、全世界でシリーズ累計7,000万本という驚異的な売上を誇るレーシングゲーム『グランツーリスモ』。本作を制作する株式会社ポリフォニー・デジタルに、HALを2006年に卒業した甲斐智成さんが勤務している。

「初代グランツーリスモで遊んでいたのは、私が中学生の頃。その当時はゲームクリエイターになりたいとまったく思っていませんでした。今こうして作品に携わっていることを、本当に不思議に感じますね」

甲斐さんの仕事は、ゲームの背景を制作するランドスケープデザイン。チームリーダーとして、全体のスケジュール管理やクオリティのチェックを行う他、ゲームに登場するコースのロケ地へ実際に取材に行くこともあるという。「今の仕事が本当に楽しい」と目を輝かせる甲斐さんだが、実は意外なことにも高校3年生の冬まではこれといった将来の目標を立てていなかったそう。
「大学に行って普通に就職するという選択肢もあったのですが、高校3年生の冬休みに将来について真剣に考えたんですよね。そのとき、自分のやりたいことがゲームや映画などの制作であることに気づいたんですよ。そこからHALの体験入学に行って進路を決めましたね」

HALを選んだ理由は「一番学校っぽくない学校だったから」とおどけた調子で語る甲斐さん。入学後はグループのリーダーとして、周囲をまとめる役目を請け負うようになっていった。
「HALには本当に色々なタイプの学生がいました。価値観の違う人たちとチームを組んで作業をするのはとても大変でしたけど、その経験が今に活きていると感じます。個人的な考えなんですが、人間って二十歳前後くらいで人格が固まってくるので、それ以降に自分を変えるのって大変なんですよね。そう思うと、早くにそうした経験ができたのは良かったと思います」

1年生のときに委員長をやったことで 苦手だったチーム作業を克服

高校生まではどちらかというと個人主義で、チーム作業が得意でなかったという甲斐さん。人前で喋るのも苦手で、周囲をまとめるというタイプではなかったそう。そんな甲斐さんが入学後にリーダーになったのは、先生からクラス委員長に抜擢されたことがきっかけだった。
「いざやってみたら、人をまとめるという仕事にも需要があることに気がついたんです。それまでは勉強ができるとか、絵が描けるとか、そういうことだけが個性だと思っていました。HALに入学して1年目は自分が一番変われた年で、今の仕事につながる足場をつくれたと思います」

勉強や課題に追われがちな学生時代だが、甲斐さんはそれ以外にも様々なことに積極的に挑戦した。
「先生のサポートを行うアシスタントスタッフとして、体験入学の運営にも関わったりしました。授業だけではなくて、まったく関係ないことに一生懸命になるのも大事だと思います。社会人になってからも、作品だけをつくっていれば良いわけじゃない。どんなに良い作品をつくっても、それを発信するためのコミュニケーションやプレゼンテーションの力が必要なんです。そういう自分の武器を学生時代につくれたことは、とても大きかったですね」

技術力だけでなく、“人間力”も身につけた甲斐さんは、就職においても柔軟な思考で臨むことができたという。
「リーダーの経験から、食わず嫌いをしなくなったんです。絶対にこのゲームをつくりたい! とか、この会社に入りたい! ということにこだわらなくなりました。結果的に求人があった会社を何社か受けて、東京の映像制作会社に入社したんです」

食わず嫌いをせず、常に自然体で。
それが自分のスタイル

入社後の仕事は楽しかったという甲斐さんだが、当時制作していたコンテンツは国内向けのものだった。「次は世界を意識した仕事がしたい」と考えるようになった甲斐さんは、転職を決意する。そうして次の仕事として選んだのが、世界中にファンを持つ『グランツーリスモ』の制作会社、ポリフォニー・デジタルだった。映像制作からゲーム制作へ。がらりと仕事が変わることになった甲斐さんだが、「それこそ、食わず嫌いはしないんですよ」とニコリ。
「入社してから車好きになりましたけど、実は今の会社に入るまでは車にはあまり興味がありませんでした。入社の一番のポイントは、この会社なら自分の強みを活かして仕事ができそうだと感じたことなんです。仕事の内容に強いこだわりを持つよりも、自然体で色々な仕事を経験する方が楽しいですから」

そんな甲斐さんが今の仕事をしていて喜びや達成感を感じる瞬間は、やはり作品への反応をもらったときだという。 「今ならTwitterやYouTubeで世界中のユーザからの生の意見が聞けますから、好評だと嬉しいですね。もちろん反応が良くないと落ち込みますけれど…(笑)。でも、良い時代になったなと思います」

HALに入学したことで、それまでの自分から脱皮できたという甲斐さん。自らの経験を踏まえて、クリエイターの在り方を語ってくれた。
「ものづくりをしているときは、自分の内面と向き合って掘り下げていきがち。それは楽しい作業なんだけど、そのまま掘り下げていくといつかは空っぽになってしまうんです。そうならないように、常に外から色々なものを詰め込んでいく方が良いでしょう。特に学生の頃は、敢えて自分自身を確立させない方が良いと思いますよ」

甲斐智成
CG映像学科/2006年卒業
HAL名古屋・CG映像学科を2006年に卒業後、映像制作会社を経て株式会社ポリフォニー・デジタルに。現在はランドスケープデザインチームのリーダーとして、『グランツーリスモ』シリーズの企画・制作に携わる。よりリアルなランドスケープデザインを制作するべく、実際のコースを巡るなど、他のゲームにはない臨場感を追求している。
株式会社ポリフォニー・デジタル
株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントの100%出資によるソフトウェア開発会社。当初はソニー・コンピュータエンタテインメント内の一部門であった『グランツーリスモ』制作チームが1998年に独立して設立された。主な作品に『グランツーリスモ』シリーズ、『ツーリスト・トロフィー』などがある。

※卒業生会報誌「HALLO」67号(2013年11月発刊)掲載記事