eSportsとしても注目
『GRAN TURISMO』の新たな進化に挑戦し続ける
- 甲斐 智成
- 株式会社 ポリフォニー・デジタル
- ディレクター/デザイナー
- CG映像学科卒※/2006年卒業
※2020年4月より「CG・デザイン・アニメ4年制学科 CG映像コース」に名称変更
常に最新の技術を駆使して最高のゲーム体験を実現
様々なテクノロジーの登場で近年のゲーム制作は大きく変わった──そう語るのは株式会社ポリフォニー・デジタルの甲斐智成さんだ。甲斐さんはHALを卒業後、映像制作会社を経て同社に入社。以降、大人気レースゲーム『GRAN TURISMO』シリーズに一貫して関わってきた。エンバイロメントアーティスト(ゲームの中の背景モデルを作成する仕事)である甲斐さんが手がけるのは、ゲームの背景グラフィックだ。
『GRAN TURISMO』は1997年に発売されたドライビング&カーライフシミュレーターゲーム。現実そっくりにつくり込まれた美しいグラフィックと、やはり現実に存在する車をリアルな挙動で走らせることができるゲーム性が話題となり、累計売上本数は8000万本超。紛うことなきレースゲームの頂点だ。
『GRAN TURISMO』の歩みは、まさにゲームの技術の歴史そのものである。たとえば最新作『GRAN TURISMO SPORT』ではフォトグラメトリという技術が取り入れられている。「様々な角度から写真を撮影することで、形を推測し3Dモデリングを生成する技術です。数年前はアーティストが1からつくっていたのですが、今は写真を基に説得力のあるリアルなグラフィックを早くつくれるようになりました」。さらに、あらかじめ定義された手続きを基に工程を処理し、テクチャや3Dモデルを生成できるプロシージャルという手法も登場。早く正確に背景CGをつくれるだけでなく、クオリティがアーティスト個人の能力に依存しにくくなり、生産性は大きく向上した。
5Gがもたらすのは体験をアウトソースする社会
そんな『GRAN TURISMO』シリーズは今後、5Gでどのように進化していくのだろうか。「5Gは大容量のデータを高速に、遅延なく通信することができます。そうなれば携帯機でも据え置き機に匹敵するクオリティが実現できるでしょうし、オンラインで今より多くの同時対戦なども可能になるでしょう。場所を選ばず遊べますから、遊び方そのものが大きく変わると思います」。
5Gが変革するのはゲームだけではないと甲斐さんは続ける。「体験そのものをアウトソースする時代がくるかもしれません。たとえば海外旅行に360度カメラを持っていって撮影した映像をリアルタイムに日本に送信し、それを別の人がVRでリアルタイムに楽しむということも可能になるのでは。現地に行かなくても旅行が楽しめるとなれば、高齢者やハンデを持った方にも喜ばれるのではないでしょうか」。
そうした体験のアウトソースが可能にするのは、『GRAN TURISMO』のさらなる進化だ。たとえば、自動運転が実用化されれば、本物のドライバーとゲームのドライバーが実車でそれぞれの操作方法で競うという夢のようなレースも実するかもしれない。ゲームという仮想空間と現実空間の融合──これぞまさにSociety5.0だ。
HALでの学びが今もなお仕事での再発見につながっている
ゲーム業界の最前線で活躍する甲斐さんは現在、入社13年目。3年目にはチームをまとめるリーダーとなり、現在はクオリティに責任を持つディレクターとして活躍している。もともとゲームが大好きで、特に美しいCG映像に惹かれた。「将来、CGの時代がくる」と考え、HALの門を叩いた甲斐さん。学校では委員長を務め、クラスをまとめる立ち位置だった。先生からは技術はもちろん、人を育てるノウハウも吸収した。「一人ではなくチームで成果を上げることにやりがいを感じる性格だと気づいたのは、HALでの経験が大きかったです。HALは才能があり、強い目標を持った人が多い。彼らが力を発揮できるようまとめる力があるのが自分の強みだとわかったんです。そういう意味で、私はHALという場に育ててもらったのだと思います」。
プロデュースやマネジメントを得意とする甲斐さんは、制作だけでなくビジネスの場でもその力を発揮している。『GRAN TURISMO』に協力して頂いてる企業との打合せや調整も、甲斐さんの得意とする仕事だ。外部の企業と関わるようになった背景には、eSportsの盛り上がりがある。最近では国体『全国都道府県対抗 eスポーツ選手権 2019 IBARAKI』の正式種目に『GRAN TURISMO』が選ばれ、世界的なタイヤメーカーである「ミシュラン」とのパートナーシップを発表した。“eSportsとしての『GRAN TURISMO』”に世界中から熱い視線が送られている。「ここまでの規模で大会をやるのは初めてのことで、正直手探り状態です。ただ良いグラフィックをつくればいいだけでなく、ビジネスとしての側面も考えて制作しなければいけないのもこれまでと違うところです」。これまではドライビングシミュレーターというジャンルを打ち出し、いかにリアルであるかを追求してきた『GRAN TURISMO』。今後はeSportsを意識し、エンターテインメントとして観戦も楽しめるゲームを目指すという。
急速に変わりゆくゲームビジネスの世界。そこにこれから飛び込もうとする学生に向けて、甲斐さんは次のようなメッセージを送った。「HALで得たものは一生の糧になります。私自身も社会に出てHALではこうだったなと常に再発見を繰り返し、ブラッシュアップして仕事に活かしています。何の役に立つかわからないと思うことがあるかもしれませんが、それを役立たせるのは自分次第だということを忘れないでください」。
- 甲斐 智成(かい ともなり)
- CG映像学科卒※/2006年卒業
- 株式会社 ポリフォニー・デジタル
- エンバイロメントチーム ディレクター/デザイナー
- 2006年3月HAL・CG・デザイン・アニメ4年制学科CG映像コースを卒業し、映像制作会社を経て株式会社ポリフォニー・デジタルに入社。ランドスケープデザインチームのリーダーとして、『GRAN TURISMO』シリーズの企画・制作に携わる。最近ではeSportsにも関わっており、HALでもスペシャルゼミを予定している。
※2020年4月より「CG・デザイン・アニメ4年制学科 CG映像コース」に名称変更