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市場の形成から成熟、収益性の向上までスケールの大きな事業にトライできる歓び。

IT/WEB/AI

ソフトバンクモバイル株式会社
神谷義孝(技術管理本部事業戦略企画室ネットワーク品質向上課/課長)

ITや通信事業が社会を牽引する基幹産業になって久しいが、携帯電話がこれだけ普及した現在、一見すると、市場の成熟はピークに達したようにも見える。しかし当然、新たな通信システムのチャレンジは続いている。自動車のIT化を促進しようというテレマティクス事業は、そうした将来の可能性を秘めた新規事業の1つだ。ソフトバンク モバイル株式会社の神谷義孝さんにお話をうかがった。

テレマティクスは通信会社発の提案
まずは普及と市場形成を狙う

ソフトバンクグループの中核に位置し、移動体通信事業を中心に事業展開するソフトバンク モバイル株式会社。iPhoneやiPadなど話題が豊富な同社だが、自動車の新しい通信環境づくりとして神谷さんが取り組んでいる“テレマティクス事業”も、新たな市場を生む大きな可能性を秘めている。

「家庭内の通信回線や携帯電話に比べて、自動車の通信はメーカーのサービス的な位置づけで、なかなかビジネス化が進んでいませんでした。それを、メーカー主導ではなく、通信会社の側からビジネス化していこうというのが、ソフトバンクのテレマティクス事業です。本田技研工業ならインターナビ、トヨタ自動車ならG-BOOKなど、メーカーによって名称は異なりますが、Bluetoothなどの接続方式で携帯電話回線とペアリングして通信を行う点は同じです。これまでは通信料が問題でしたが、弊社が今年4月からパケット定額+月額210円のプランを開始し、一気に敷居が下がりました」

テレマティクスが扱う情報は、差分更新機能による地図データやお店情報に加え、今ではVICSシステム以上に詳細で正確な「プローブ交通情報」も得られ、より情報価値も高まっている。

「VICSは道路に設置された音波センサーからのデータをもとに渋滞情報を生成しますが、プローブ交通情報は走行している自動車そのものから軌跡情報を得るので、よりリアルな渋滞情報が得られます。市街道路なども含み、カバーしている道路範囲は、VICSの数倍はあります」

ただし、テレマティクスが広く普及し、収益性のある市場を形成するには、少し時間がかかるようだ。

「確かな市場をつくるためには、まず普及に向けたサービスが大切。普及が進めば、ある時点で飛躍的な成長があると考えています。成功事例は、弊社の人気サービスであるフォトビジョン。当初は端末代金がほぼ無料、通信料月490円と、高機能携帯の付帯サービスという形で提供していました。ところが提供を続けるうちに、市場がフォトフレームというアイテムを受け入れるようになった。いまや様々なデジタルフォトフレームの中で、当社のフォトビジョンはもっとも売れる商品の1つになっています」

HALで学んだプレゼンテーション能力が
人脈をつくり、社会を変える

元々はHALを卒業後、愛知県でADSL事業を手がける名古屋めたりっく通信に入社した神谷さん。ソフトバンクグループがYahoo!BBを立ち上げるため即戦力を持つ同社を併合してからは、同グループで携帯電話事業の立ち上げやM&Aなどの業務を担当してきた。新たな戦略に次々と取り組でいる同グループゆえに、神谷さん自身の仕事もスケールが大きい。

「現在の私の仕事は、テレマティクスがどこまで実現可能か、モデル製品を色々つくって実験することと、様々な企画提案のプレゼンテーションを行うことが中心です。今の私にとって、HALで学んだことの中で一番大きいのは、ズバリ、プレゼンテーション能力ですね。簡にして要を得た中身の濃い企画書の書き方などもしっかり教わりました」

他社の社長や取締役など、企業のトップとの面談や会食の機会も多いという。

「これまでも様々な事業を展開していますから、新たな事業を立ち上げる時にも、協力が必要になれば会いに行って相談できる方々が増えました」

最後に、テレマティクスの未来像を神谷さんはこう語る。

「携帯電話が第1の回線、PDAやiPhone、iPadなどの情報系端末が第2の回線とすると、他の生活製品と通信するテレマティクスなどは言わば“第3の回線”。この領域で、まだどの通信会社も成功していない収益事業化をしたいというモチベーションがあります。フォトビジョンも第3の回線の例ですが、大規模なものとなるとテレマティクス。今後は、位置情報や行動履歴を使ったターゲティング広告なども組み込んだ事業展開をしていきたいですね。カーナビ自身に広告を出すわけですから、例えばルート設定をした地域の旅館やお土産物の情報など、ピンポイントに訴求ができると思います」

同社による“第3の回線”へのチャレンジは、まだ始まったばかりだ。

ソフトバンクモバイル株式会社
移動体通信事業及び電気通信に関するソフトウェアの製作や販売を行う。ソフトバンク契約回線への音声通話が無料になる「ホワイトプラン」や、アップル社と提携して日本国内の販売を担った「iPhone」、同じく今年5月登場の「iPad」など次々に話題性の高いサービスを発表する傍ら、宮崎県の口蹄疫被害に対して携帯電話で募金活動をするなど、幅広い社会貢献活動も行っている。

※卒業生会報誌「HALLO」64号(2010年06月発行)掲載記事