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北米トヨタのカーデザインで
世界を舞台に挑戦し続ける

CAR DESIGN

下横 洋之
Calty Design Research Inc.
カーデザイナー
カーデザイン学科/2014年卒業

世界で通用するデザイナーを目指して

今は、アメリカのミシガン州にあるトヨタ自動車のデザインスタジオに所属して、「タコマ」をはじめとするピックアップトラックやSUVなどアメリカ市場に特化した車種の外装デザインを行っています。デザインの仕事は、まず紙にラフスケッチを描くところから始まります。方向性が固まり役員の方たちに承認されると、そのスケッチが3Dや粘土で造形されますので、それらが思い通りにできているか監修します。その後のプロセスでは、その形が法律に則っているか、燃費の向上に貢献しているか、事故をした時に安全に衝撃を和らげられるのか、そういったクルマの信頼性に形で応えていくことも仕事になります。最後は工場から出荷されたクルマが、ちゃんと思ったものになっているかまでずっとクルマの形を見続けます。特にやりがいを感じるのは、プロジェクトの最初の段階ですね。何の縛りもなく、白い紙の上に好きなように形を連想して考えられる時間は、カーデザイナーとして一番楽しいです。
元々、一つの仕事を目指すのなら一番上まで行きたいという野心を抱いていました。アメリカやヨーロッパは自動車の本場ですので、そこに行って自分の能力をどこまで上げられるのか、自分はどこまで戦える人間なのか、そういう好奇心が大きいんですね。前職の自動車メーカーでは、運よくイタリアに10ヶ月留学する機会がありました。イタリアは、まるで美術館にいるような印象でしたね。フェラーリなどを手掛けているピニンファリーナという有名なカロッツェリアを数回訪れましたが、「木型のモデラー」という木の枠をつくって鉄板を叩く職人がいるんです。絵で描くだけでなく、その人たちの手と感性で彫刻的な独特の丸みを持った美しい面が生み出される現場を見る機会があって、これがイタリアのデザインの真髄かと驚きました。しかし、それがそのまま日本に持って帰ってきて使えるとは思いませんし、それがデザインのあるべき姿だとも思いません。その土地にはその土地にあったやり方があると認識できことが勉強になりましたね。日本には日本流の美的センスがあるので、それを、自信をもって考えられるようになったのは大きいです。

デザインから英会話まで、仕事の基礎をHALで身につけた

一方で、国やメーカーを問わず共通していることもあります。「スタンス」というクルマのデザインのイロハにあたるもので、HALでも一番はじめに教わりますが、タイヤとタイヤの間のどの位置にクルマの芯となるコアとなるボリュームがあるのか、バニシングポイント(消失点)という横から見た時に線と線がどの地点で交わるような線の性質をしているのか…などの理論です。この良し悪しの物差しは、どのメーカーも同じようなものを使っています。どんなに奇抜な車が出ようが、どんなにかっこいい車が出ようが、この考え方は絶対に外さないですね。
HALで学んで良かったことは、デザインの仕事における基礎を幅広く学べたことです。もちろんクルマのデザインを勉強するのですが、カリキュラムにプロダクトデザインやグラフィックデザインなどもあり、それらを知った上でクルマのデザインを学びました。こうした土台の上に自分のキャリアを積み重ねていくことによって、自分の価値を着実に上げていけると思います。HALには英会話の授業があったのもラッキーでした。それがなかったら外国を目指そうとも思わなかったでしょうし、そのおかげで海外にも好奇心が湧くきっかけにもなりました。
あとは夜遅くまで教室が開放されていたのもよかったですね。入学当初は何も知らない状態だったので、とにかくたくさん練習しようという気持ちでした。先輩や同級生たちと夜遅くまで絵を描いて疲れて帰って翌朝また学校に行くという生活をするようになり、スポーツでいう筋トレみたいな感じで、そういった反復する姿勢が身につきました。当時の同級生とは、家に遊びに来たりする付き合いで仲良くやっていますし、同じカーデザイナーのライバルとして刺激にもなっています。

好奇心を武器に、これからの時代を背負うデザイナーへ

アメリカは個人主義の国ですから、自分のパフォーマンスが低ければ解雇されますが、逆に言うとやればやるだけ成果に繋がってきます。やった時の達成感がすごく目に見える環境なので、できる限りのことは全部したいというつもりでいます。トヨタデザインも大きな変革期を迎えていますし、これからの時代を背負っていくカーデザイナーになるために、クルマづくりをトータルに考えて、分業の壁を越えて一歩先に踏み込んだ形を考えられるようになっていきたいですね。
海外で頑張っていきたい人は、好奇心が大事だと思いますね。赤ちゃんが見たもの全部に興味を持って口に入れるように、興味をどんどんひろげてほしい。学生の皆さんも入学したての時は好奇心に満ち溢れていると思いますが、気をつけたいのが途中で飽きてしまうことです。誰でも学び始めは新鮮に感じますが、学んでいるジャンルのことだけを追求していると、どうしても偏りすぎて中だるみが出てきてしまいます。クリエイターを志す人がそうした時間を過ごすのはあまり良くありません。ですから、とにかく色々なものに好奇心を持って飛びついてほしい。一つのジャンルに囚われずに何でもやってみるように自分をもっていけるといいと思います。

PROFILE
下横 洋之
Calty Design Research Inc.
カーデザイナー
カーデザイン学科/2014年卒業

HALカーデザイン学科へ入学。卒業後は日産自動車にカーデザイナーとして入社。ニスモのデザイン改革などに携わった後、北米トヨタのデザインスタジオ Calty Design Research Inc.に移籍し、渡米。現在は北米向け車種のカーデザインに携わっている。