AIでリアルタイムCGの可能性を拡大
最先端の世界で活躍するAIエンジニア
柳川 光理
株式会社EmbodyMe
リードAIエンジニア
Symmetry Dimensions Inc.
システム開発部 リサーチエンジニア
CG映像学科※/2011年卒業
※現:CG・デザイン・アニメ4年制学科 CG映像コース
最新技術で社会に必要な製品を生み出す
コロナ禍をきっかけに様々なメディアで話題に
画像を1枚用意するだけであらゆる人になりきってZoom等の電話会議に参加できるバーチャルカメラアプリケーション「xpression camera」。株式会社EmbodyMeが開発したこの画期的な技術は、コロナ禍でテレワークが広まったことを受けて、様々なメディアで話題になった。その開発に携わったのが、HALでCGを学んだ柳川さんだ。
柳川さんは「xpression camera」Windows・Mac版において、顔変形を可能にするエンジン部分の実装や、人の顔を検出したり、音声から口を動かすアニメーションをつくるために必要なAI技術・ニューラルネットワークの研究を担当。2022年2月に正式リリース予定だ。
xpression camera: 画像や動画から対象の人物になりきって「Zoom」などでビデオ会議が行えるアプリ。画像や動画が1枚(1本)あれば、著名人など、希望する人に“変身”し、WEBカメラからその人の表情や動きをリアルタイムに認識して動かすことができる。
EmbodyMeでリードAIエンジニアとして活躍する傍ら、柳川さんはデジタルツインを推進するSymmetry Dimensions Inc.のリサーチエンジニアも務めている。同社が開発した「大容量点群描画エンジン」は広大な面積を誇るメキシコの大都市グアダラハラ(187.9 km²)の3D測量データをロードなしでスムーズに画面に表示することができる。柳川さんは本エンジンの主要部分のプロトタイプ開発すべてを担当。2021年の静岡県熱海市の土石流発生時には、このシステムが迅速な被害状況の把握にも用いられ、柳川さんは静岡県職員らとともに対策チームの一員としてデータ分析にあたった。
大容量点群描画エンジン:ドローンなどで収集した地形データをもとに、高速で3Dモデルを作成することができる画期的な描画エンジン。NTTドコモとの5G×デジタルツイン実証実験にも用いられている。
「プログラミング好き」があえてCGを選択
苦手分野がHALでの学びを通して自分の武器に
CGとAI技術で社会に求められる製品の開発に従事する柳川さんだが、幼い頃からゲームとともに育ち、元々はゲーム技術に携わる仕事を志望していたという。中学生の頃からプログラミングが好きで、将来はゲームプログラマーになりたいと思っていたが、あえて得意なことをやっても面白くないという理由で、ゲーム開発に必要な技術の中でも一番苦手なCGを学ぶためにHALに入学した。
実は、現在のAI研究に辿り着いたきっかけも、在学中の授業にあるという。
「HALで学んだことというと、かなり多く挙げられますが、美術的センスと技術的センスを同時に養うことができたというのが一番大きいと思います。特に3次元幾何学※です。もし3次元幾何学の授業を受けていなければ、AIの研究をしようなどとは思わなかったと思います。CGの学科でありながら、資格試験を通じてこのような知識をしっかり学べたことは今でもとても役立っています。また、DTPやWEBデザインの授業も役立っています。今でもWEBや印刷物のデザインを時々することがあるので」。
※3次元幾何学:3DCG制作に関わる数学的知識。3Dで制作したモデルを変形させる際に、行列、線形代数などの考え方を用いる。
HALで興味の範囲を広げて、様々なことを吸収していった柳川さんだが、在学中はこんなエピソードもあったそう。
「一番印象深いのはグループ制作です。チームで制作をするにあたって多くの試行錯誤、手痛い失敗や挫折などたくさんの経験をしました。在学中にこのような経験ができたことは、社会人になっても生き続けています。」
CG技術を持ったAIエンジニア
新しいアイディアを実践し、未来を先取りする
HAL卒業後、柳川さんは名古屋の来栖川電算で文字認識や自動運転をはじめとする研究に従事。自動運転技術の研究でAIの動作を可視化するためにCGを扱うようになったのがきっかけとなり、Symmetry Dimensions Inc.を経て、EmbodyMeに転職した。(業務委託という形で現在もSymmetry Dimensions Inc.での業務も継続。) その後、同社が著名スタートアップ企業を輩出するアメリカのTechstars社に採択され、3ヶ月間ロサンゼルスに会社の拠点が移ったことで、国際的にビジネスを展開することに。現在、柳川さんは日本語での社外コミュニケーションと、英語での研究チームの運用を任されている。
時代の先を行く技術を分野横断的に身につけ、グローバルに活躍を広げている柳川さんは、現在の仕事のやりがいをこのように語る。
「ゲーム・CG技術とAIの応用に取り組んでいる企業は日本では非常に少なく、ゲーム先進国である日本で最先端のCG技術に携わっていけることは非常にやりがいを感じます。AI技術を使って、従来のCG技術では到底思いつかないようなアイディアを次々と実践できるのは技術者として非常に面白いところです。
たとえば、データからモデルを自動生成するGAN(敵対的生成ネットワーク)、VAE(変分オートエンコーダー)などの技術は、まだ計算量の問題はありますが将来的にリアルタイムCGの限界を大きく引き上げるポテンシャルがあります。 日進月歩の技術を、世の中に届くよりも遥かに先に試して製品化に取り組むことで、未来を自分で先取りできる、ということが一番のやりがいだと思います」。
最後に、HALの後輩たちへ刺激的なメッセージをもらった。
「リアルタイムCG技術はAI技術の導入によって変革を迎えつつあります。自分の専攻分野だけに閉じこもらずに、他の分野にも目を向けることで可能性は大きく広がっていきます。ただCGをつくるのではなく、果敢に新たな技術を取り入れ、新たな表現を生み出せるようになれば、ただのクリエイターではないもっとすてきな存在になれるはずです!」